180 非けいれん性発作重積状態(NCSE)–ぼんやり状態が長時間続く症例– (2020年4月号)

てんかん発作が軽い場合は一瞬意識が曇るだけで終わる。通常長くても数分で終わる。しかしまれには意識障害が数時間、あるいは数日続くことがある。この間、倒れたりけいれんなども起こさずにぼんやり状態だけが何時間も続く。これを非けいれん性発作重積状態(NCSE Nonconvulsive Status Epilepticus)と呼ぶ。

多くはてんかん発作が、なかなかおさまらず、その経過中に「非けいれん性発作重積状態」が発症してくる場合があり、これは発作が難治に経過した結果と考えられた。

ところが最近、最初から「非けいれん性発作重積状態」で発症する症例があるこわかってきた。症例を示す。

症例1:欠神発作が難治化して成人になってから「非けいれん性発作重積状態」を示すようになった症例。
現在50歳 女性。知的障害なし。地域の小・中学卒。15歳頃から急に動きが止まり、1点を凝視するのみの短い軽い発作が、月数回認められるようになった。脳波で特徴的な、3Hz棘・徐波結合が全般性に頻回に認められたので、「小児欠神てんかん」と診断された。通常の欠神てんかんは10歳以内に発病するが、本症例は15歳とかなり遅く発病したことになる。その後発作は通常の抗てんかん薬で改善せず、長期間にわたり難治に経過した。15歳頃から「非けいれん性発作重積状態」が月1-2回出現するようになった。長い意識障害が半日も続く。この間ぼんやりして、呼びかけに反応してこちらを向くが返事がない。食事もできず、トイレにも行けないのでおもらしもある。脳波では3Hz棘・徐波複合が途切れなく頭全体に連続してみられ、この間ぼんやり状態が続く。そのうち異常脳波が途切れて、正常脳波が数秒、顔を出すようになると、この瞬間会話ができるようになるが、またすぐ異常脳波が出現して、朦朧状態にはいる。これを繰り返していくうちに、最後に異常波は消え発作がおわり、意識が戻る。

症例2 「非けいれん性発作重積状態」で発症した症例。
45歳女性。それまで発作歴なし。普通の家庭の主婦である。ある時急にぼんやりして動かなくなり、それが2日ほど続く発作が始まった。その頻度は月1-2回。

脳波を取ってみて驚いた。6Hzの高振幅徐波と3Hz棘徐波複合が頭の全般から途絶えることなく、連続的にみられた。この間全く動かず、目を開いて正面を凝視しているが会話はない。夜無理にベットに横にさせるも開眼のまま一睡もしない。食事もできず、トイレにもいけないので、尿失禁がある。難治に経過したが結局高用量のバルプロ酸で発作が止まった。

以上の2症例はてんかんとして診断・治療され、改善したのでてんかんとして矛盾はないが、最近ある種の抗生物質や高うつ病薬でも同じような発作が誘発される場合があり、原因不明の意識障害が長く続く場合、NCSEも鑑別診断に入る。診断は脳波が決め手となる。

 

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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