24.てんかんと合併する学習障害 (2005年3月号)

学習障害(LD)という概念は昔からあったが、それは知的障害の中に隠れて見えなかった。知的障害という言葉は今では普通に使われているが、かつては「精神薄弱」であった。この用語は精神が薄くて弱いというという表現で、あまり適切ではなかった。そもそも薄い精神というはありえないことである。これに代わって精神(発達)遅滞という言葉が登場したが、これも他人より「遅い・早い」という観点から見た差別用語でもある。早い人は優れており、遅れをとった人は敗者を意味する。しかし今でも役所の正式な名称は精神遅滞である。これに代わって知的障害という言葉が生まれ、今ではほとんどの人がこの用語を使っているようである。英語で言うなら「deficiency」(欠落、不足)がdisorders(障害)に代わったことになる。

最近病気の名称変更が多くなった。「精神分裂病」が「統合失調症」に、「痴呆」が「認知障害」になり、一般の人々に抵抗なく、すばやく受け入れられている。古くは「蒙古症」が「ダウン症」に、また「らい病」が「ハンセン氏病」に代わった。病気の名前は「上・下」、「強い・弱い」、「早い・遅い」、「高い、低い」、「豊か、貧弱」など能力、地位に関係のある言葉は避けたほうが良いというのは分かるが、「精神が分裂する」は差別用語であろうか。「精神が分裂する」のがおかしいとすれば、「精神が統合する」というのもおかしな話である。「協調、調和」という言葉を使ったほうが良かったかもしれない。「らい病」がなぜいけないか、「蒙古症」がなぜいけないか。それはおそらく長い間、この疾患が忌まわしい病気であり、その病名が暗いイメージを呼び起こしたからであろう。病名一新して「過去からの脱却をはかる」という意気込みがあったようだ。

それでは「てんかん」はどうだろうか。差別用語ではないにしろ、過去の暗いイメージを引きずっていることは確かな様である。それでは「てんかん」という名前に代わるべき適切な用語があるだろうか。「ジャクソン病」、「テムキン病」など人の名前はどうだろうか。あるいは「神経過剰発射疾患」、「脳過剰発射病」、「脳電気発射伝導障害」などが頭に浮かぶ。

10年以上前にてんかん協会や各地の会合で病名変更が議論された事があるが、病名を変更したからからといって、差別的ニュアンスが変わるわけではないということで結論は得られなかった。しかし最近、病名変更が相次ぐ中、「てんかん」なる病名変更も、もう一度議論してもいいかなとおもう。

さて「学習障害」であるが、これは通常平均的な知的レベルは保たれてはいるが、計算やあるいは書字(漢字など)、言語など特定のある狭い領野で障害があり、それに相当する脳の一部に欠陥があり、一般の(全般性)精神発達障害とは異なる一群があることが認識された。これが世間に広まったとき、それまで普通に知的障害とされてきた人々が、あるいはわが子もこの疾患ではないだろうか、という疑問が起きてきて「精神の病気ではない、学習障害という別の脳の病気」といった意識が高まった。

「学習障害」も「知的障害」も脳の病気であることにはかわりがないのでお互いにあまり差別しないほうがよさそうである。「学習障害」が重要なのは教育の現場であろう。とくに障害のある分野、例えば言語、数学、漢字の書き方などで特別の教育・訓練が必要な場合がある。その際どの領域で低下があるのかはより詳細な能力テストを行い、それに適した個別的なより良い教育方法が考慮されてしかるべきであろう。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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