20.反射てんかん。その2.びっくりてんかんについて(2004年11月号)

びっくりてんかんとは「突然の音や肩を叩かれてびっくりして発作を起こすてんかんである」。この種のてんかんはかなり稀ではあり、国際てんかんでは「特殊てんかん」に分類されている。「びっくり、驚く」という心理的な要因がてんかん発作の引き金になっていることは興味ある現象である。多くは予期せぬ突然の音である場合が多い。

音刺激はそれが驚愕を引き起こすのに十分であればいくら低い音でもよい。例えば茶碗の触れ合う音、箸の置く音、ドアの開閉、時計の音などである。音にびっくりして発作を起こす場合は聴源性驚愕発作といい、触覚による場合は触覚性驚愕発作である。びっくりさせるような触覚としては、不意に後ろから頭や肩を叩かれたりすることである。知人が不用意に後ろから肩をポンと叩くなどの刺激がそれである。別に強く叩く必要はない。びっくりするようであれば、例えば天井から顔に落ちる一滴の水滴でも十分である。目の前で頭を叩かれても発作は起きない。あらかじめ叩かれるという事が見えており、予期できるから発作は起らないのである。しかしすれ違いざま後ろから肩を叩かれると発作はおきるのである。叩かれて発作を起こしやすい場所は後頭部、首、肩、背中などであり、それは個人差が多い。

音についても同様である。目の前からきた車が警笛をならしても発作は起きない。音が来るかもしれないと予期できるからである。しかし後ろの車が何の予告もなく突然音を出すと発作がおきる。前からの音と後ろからの音ではびっくりする度合いが違う。 発作は主に強直発作である。一瞬体を硬くして両手を広げ、頭を全屈させ全身を硬直させる。「ヒー」と発声する場合も多い。立っていれば多くは倒れる。この種の発作は主に知的障害や脳性まひを合併している人に多い。肢体不自由で寝たきりあるいは車椅子になっている場合もある。

予期せぬ音や、びっくりするような触覚刺激はいったいどのように脳に作用して、てんかん発作を起こすのだろうか。普通の人でも近くで突然「ワッ!」と大声を立てられたりするとびっくりして体をのけぞるようにして、一瞬硬直する。これを「驚愕反射」という。 この反射は上位にある大脳皮質からの抑制を受けている。そのため通常では「ちょっとびっくりするだけで発作にはいたらずに収まってしまう。しかしもし上位の大脳皮質がすでに障害されており、したがってこの抑制機構がマヒしているとするとこの「驚愕反射」が昂進する。脳性まひの患者さんで、些細な音で「びっくり」して一瞬体を硬直させるのはこの「過剰な驚愕反射」である。この「過剰な驚愕反射」が大脳皮質を刺激しててんかん発作が生ずると考えられる。

この種の「驚愕反射てんかん」は一般に難治である。発作それ自体は強直発作であり、大発作ではないので、仮に何回も繰り返して起きても生命に別状はない。薬が増えてぐったりするよりは、薬はできるだけ少量にして、仮に発作が完全に抑制されなくとも、生き生きとした日常生活が送れるようにしたいものである。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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