169 脳波で、てんかんと診断するのは危ない(2018年6月号)

何らかの精神・神経症状が発作的に起こり、それが繰り返して出現する場合、てんかんを疑って脳波をとるのは正しい。そして脳波で異常が出ればすぐに「てんかん」と診断して投薬を開始するのは危ない。なぜなら発作症状があり、かつ脳波に異常があっても、てんかんではない症例もかなり多いからである。てんかんと診断して治療する前に、臨床症状の吟味が大切である。発作症状を詳しく聴取してこの症状がてんかん発作として妥当かどうかを検討しなければならない。この吟味がなされないまま、治療に入るとしばしば間違いを犯す。心因性非てんかん性発作(PNES)などはその典型的な例である。これについてはすでに何回も述べた。第15号てんかんに合併する心の問題:偽発作その1(2004.6)第16号その2(2004.7)第17号その3(2004.8)第56号 知っていますか脳波検査のウソとホント(2007.11)第94号 てんかん最前線:心因性非てんかん性発作(いわゆる偽発作)に関する診断治療ガイドライン(2011,1)

最近立て続けにてんかんでないのにてんかんと診断され服薬していた患者さんに会った。

症例1 55歳男 最近心不全があり、僧帽弁形成術の手術をうけた。その後2か月して自動車運転していて急に頻脈(脈拍150)があり、胸部痛と共にもうろう状態が半日つづいた。脳波をとったところ異常波があり、てんかんとして抗てんかん薬を服用した。持参した脳波を見た所、全般的な遅い波があり、脳波は異常ではあったがてんかん特有の発作波はなかった。発作時間が半日とてんかんとしては長すぎるのでてんかんとは言えないと判断した。

症例2 17歳 男性 運動部員で選手として試合にも出る方である。2年前に試合で相手選手とぶつかり、脳震盪を起こしたことがあった。その3か月後、夕方急に意識を失い崩れるように倒れた。すぐ気が付いたがその夜9時ごろ再び気を失い倒れた。 気が付いた時には全生活史健忘となっていた。過去の記憶をすべて失った。幼少時・小学校からの出来事や、親・兄弟の顔も忘れ、すべての友人も忘れ、自分の家も分からなくなった。食事の際の箸の使い方やアイスクリームの食べ方などすべて忘れた。自分は今何歳か、生年月日はいつかも言えなかった。脳波は3回とっているが、3回目に軽度異常があったので、てんかんだろうということになり、抗てんかん薬を服用するようになった。

当院に来た時には時々頭痛、ボーっとすることは訴えるものの、健忘症状はやや改善に向かっていた。当院では抗てんかん薬はすべて中止し、外来にてカウンセリングを中心に診療続けた結果、同じ運動部員との複雑な人間関係で悩み、強いストレスが明らかになってきた。そしてそれと同時に記憶喪失は徐々に回復した。運動部を止めて大学受験の勉強に入り、発作症状もその後みられなくなった。

全生活史健忘は強いストレスなどによって引き起こされ、てんかんと間違われやすい。これについては第84号全生活史健忘(2010.3)を見てください。
脳波にはてんかんであっても、てんかんでなくと異常が出ることがあるので、脳波で診断しようとするとしばしば間違う可能性がある。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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