145.ムズムズ足症候群(2015年4月号)

前回まで睡眠とてんかん発作について述べてきた。睡眠とてんかん発作は密接な関係がある。例えば、発作が睡眠時だけに限って起こる人がいる。主に眠りに入る時や朝方、目覚めぎわに起こりやすい。これを「睡眠てんかん」という。睡眠てんかんの大部分は、側頭葉てんかんで、特徴的な自動症を呈することが多い。口部自動症(飲み込むような動き、口をペチャペチャさせるなど)、身振り自動症(手を振る、物を握る、投げる、体をねじるなど)、複雑な自動症(騒ぐ、歩き回るなど)などがあるが、これは時には「寝ぼけ」と間違われる。日中の発作は軽いが睡眠に入ると大きな発作になることがある。また寝不足は発作の引き金になることが多い。覚醒時の脳波に何の異常もないが、睡眠に入ると異常脳波が出ることが多い。したがっててんかんの場合、睡眠脳波をとることが重要である。

今回は主に夕方から夜にかけてみられる「ムズムズ脚症候群」について述べよう。症状は急に足がムズムズして、不快な感覚に襲われ、足を動かしたいという抑えがたい気持ちが生ずる。てんかん発作ではないが、まれにてんかん発作と間違えられたりする。この異常感覚は眠りに入ったときに起こり、「ほてる」「虫が這う」「痛い」「かゆい」などと表現される。時にビクン・ビクンと動くことがある。足を動かすと消失する。

症例をのべる。
60歳台の女性。40歳ごろから夜間睡眠中にけいれん発作があった。その後しばらく発作はなかったが、10年後再発した。その後、数年の間に3回の発作がおきた。いずれも睡眠中の発作である。20年後に日中にも軽い発作が起きるようになった。すなわち自分が違う世界に入ったような感覚になり、昔どこかで聞いたような音楽が聞こえる。妙な違う世界に入ったような気分になるという。数分の短い発作である。意識はおおむね保たれており、その頻度は月数回であった。従来のデパケンSからテグレトールに変更してから発作はほぼ完全に消失した。この症例の脳波には左側頭部にてんかん発作波を認め、側頭葉てんかんであると考えられた。

発作が治まったころ、「ムズムズ脚症候群」がみられるようになった。主に夜や早朝3-4時ごろ、右足の裏がムズムズして目が覚める。虫が這っているような針で刺されているような不快感で、足が勝手にピクン・ピクンと動いたりする。不眠症になり、イライラ感もみられるようになった。その都度足をマッサージするか、あるいは起き上がって歩くとムズムズ脚はよくなる。2日に1回の頻度で起きた。リボトリールが有効であった。

本患者は側頭葉てんかんであり、日中の軽い場合は意識が失われない単純部分発作であるが、睡眠時には二次性全般化したけいれん発作であった。発作はテグレトールで、「ムズムズ脚」はリボトリールで完全に消失した。治ってよかった。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする