41.てんかんの原因、皮質形成異常について(2006年8月号)

ここ近年CTやMRIの技術が著しく発展したので、これを通して細かい脳の内部構造が見られるようになった。その結果それまで知られていなかったてんかんの病巣や原因が分かるようになった。そのひとつに皮質形成異常がある。

人間の脳はほぼ140億個の神経細胞があるという。1個の神経細胞を支えるため、その10倍のグリア細胞があるのでそれを含めるとその数は膨大である。地球上の全人口が65億というから、まさにその10数倍の神経細胞群が1人の人間の脳に存在するのだ。これがただ1個の受精卵が分裂と成長を重ねて、胎児が生まれるまでの1年間という短い間に出来上がるのだからまさに驚異である。しかもこの脳細胞はきわめてきめ細かく秩序良く並んでいて、互いに近距離、遠距離とも一瞬のうちに連絡が出来るような網の目構造になっているのだから不思議だ。

1個の神経細胞を地球上の1人の人間に例えると、脳は世界中に張り巡らされた道路、航空路線、電話、電線、上下水道などを駆使して互いに交流する建設国家にも似ている。建設国家は誰かが高いところから見回していて、どこの場所に何が必要か綿密に計画を練って青写真を作り、指導監督の下、作り上げるものだが、不思議なことには人間の脳にはこの指揮監督者がいないのである。神経幹細胞(神経細胞になる前の細胞)が、スーパーマンで何にでも変わりうる変幻自在な特性を持っており、その場に必要な細胞に自らを変身させ、互いに手を伸ばしながら、連絡していくのである。1個の神経幹細胞が「その場に必要のものが何か」ということがどうして分かるのだろうか不思議でたまらない。

大脳皮質は6層の構造になっていて脳の表面を隈なく覆っている。これを灰白質という。細胞の集団が灰色に見えるのでこの様に呼ぶ。この直下には神経線維が束状に走っており近距離・遠距離の連絡網を形成している。これを白質という。白っぽくみえるのでこの名がついた。この様に数百億の神経細胞群が一寸の狂いもなく秩序よく並んだ脳は神が創ったとものであろう。

しかし神も時々間違いを起こすのである。あるはずがない所に大脳皮質が紛れ込んだりするのである。しかるべきところに移動すべき神経細胞が、どこかに居座ってそこに集団を作ってしまうのである。これを異所性灰白質といい、皮質形成異常の一つである。

考えてみれば140億という膨大な数の脳細胞が、まったく何の間違いがなく完全な形で作り上げられると考えるのには無理がある。むしろ間違いがあって当たり前であろう。皮質形成異常は通常数ミリと小さいかあるいはせいぜい数センチと小さな集団である。きわめてまれにこれが脳全体に広がっており、大脳皮質の裏側にもう一枚の大脳皮質がある例もある。

異所性灰白質などの皮質形成異常は脳のどの部分にも起こりうる。そしてこれが時々悪さをして、てんかんの焦点となりうるのも自然の摂理かもしれない。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

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