149.一過性てんかん性健忘(TEA)(2015年8月号)

中高齢のてんかん患者に起こりやすい一過性てんかん性健忘(TEA―Transient Epileptic Amnesia―)といわれる発作がある。これはまだ一般によく知られていない病名で疾患で、さほど多くはない。

これ似たような病気に一過性全健忘(TGA―Transient Global Amnesia)という病気がある。これは突然著しい記憶障害をきたす疾患で、その間の出来事や自分が何をやったかはまったく覚えていない。家族は急に認知症になったのではないかと心配し、救急病院を受診させることが多い。数時間ないし半日続き自然に回復する。側頭葉内側面にある海馬を中心とする記憶中枢が一過性に機能不全に陥る説が有力であるが、その原因は不明である。同じような発作がてんかん発作として現れるのが一過性てんかん性健忘(TEA)である。高齢初発てんかんに多い。この疾患は「記憶」と「意識」という問題を含んでいるので複雑である。

一過性てんかん性健忘(TEA)では意識は正常で、外部から見ても全く異常な行動はないが記憶が完全に失われる発作である。純粋記憶健忘発作あるいは発作性健忘ともいわれる。多くは中高年に発症し、その持続時間は通常30分から60分で、朝の覚醒時に多くみられる。また同じ患者に意識を失う複雑部分発作も合併することが多い。つまりある発作は意識を失いもうろう状態を示しおかしな行動をするが、別の発作では記憶がすっぽりなくなるだけで意識消失もなく、おかしな行動もない。

症例を示す. 現在70歳台の男
X-5年、朝方すべての記憶がまったくなくなるエピソードがみられるようになった。今自分がいる場所がどこだかわからなくなる。自分の年齢、日時、場所も分からない。「毛布かけているから今は冬なんだろうな」、「今は2000年を超えているんだろうな」、「自分は60歳かな70歳になったのかしら」など全生活史健忘症状が出るようになった。

このエピソードはいつも朝方、覚醒直後に月1回ぐらいの頻度で起こり、約15-20分持続する。いつもは朝覚醒直後だが、1度だけ日中起きたことがある。それはゴルフをやっていたときに起きた。130ヤードのショートホールで第1打を打ったのは覚えているが、そこから記憶が全くない。気が付いたらグリーン近くにいた。その間、途中で何回かボールを打ったらしいがその記憶が全くない。一緒の回った同僚は全く異常に気付いていなかった。

この発作を患者は「記憶発作」と呼びそれを克明に日記に記載している。発作が起こるとほぼ同時に記憶力の落の衰えを感じ始めた。1週間前のことは覚えているが、1か月前のことは覚えていない。たとえば1か月前のクラス会で逢った友人、飲み会、ゴルフのことなど忘れやすくなったという。

当院に通院して治療により発作が完全に治まり、新たに記憶を失うこともなくなった。

なお脳波は右側頭部に発作波がみられ側頭葉てんかんである。認知症と間違われたが、実はてんかんであり、治療によって完全に回復した症例である。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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