152.忘れえぬ患者さん (その2)、難治てんかん患者が結婚したら穏やかになった。(2015年11月号)

難治なてんかん発作を持ち、かつ突拍子もない異常な行動をおこすので、家族や周りの人が大変困っている患者さんがいる。そのような人でも、いったん好きな人ができて、結婚すると人が変わったように穏やかになることがある。女は結婚するとこんなにも変わるものかと私はびっくりした。結婚して穏やかになる患者さんは決まって女性であり、男はそうはいかない。

例を示そう。
患者は来院時22歳、中等度の知的障害があり、来院時には施設に入所していた。幼少時からてんかん発作があった。発作は難治でその頻度は現在でも月に10回以上に及ぶ。発作は突然意識が飛び、動きが止まり、あちこち動き回る自動症がある。2-3か月に1回は倒れけいれんする大きな発作もある。発作は難治であるが、困るのは精神症状である。扉、机を蹴ったり、窓ガラスを叩き割ったり、暴言、暴力が絶えず、他利用者とのトラブルも多かった。無断離院をやり、やけを起こしてリストカッテイングなど自傷もあった。施設職員が対応しきれないので、施設も何回か変わり、最後はグループホームにはいった。ある日恋人だという男性と一緒に来院した。お互いに手をつないで仲睦まじい幸せそうな2人の様子に私はびっくりした。いずれ結婚して2人で住むという。私はあえてその男性に聞いた。「どこに住んでどうやって生活するのか」。男性曰く、しばらくは自分の家族と一緒に生活する。そのうち都営住宅に住む予定だという。

その後粗暴な言動はすっかり治まり、間もなく妊娠して男児を出産した。しかし発作は相変わらず難治である。なお脳波では右前頭部に発作波があり、前頭葉てんかんである。知能検査ではIQ 45 で中等度の知的障害がある。周りから十分なサポートがあれば今後の生活も安定するだろうと思った。

症例2:来院時20歳女性。小さな発作は睡眠中の強直発作で、約10-20秒で終わる、頻度は月数回。大きな発作は全身の硬直間代発作で、2-3か月に1回ある。母親と折り合いが悪く、頻回な家出もあった。診察場面でも親子の言い争いもみられた。衝動的にリストカッテイングもあり親を困らせた。男から暴力を受けたと言って警察が介入したこともある。

ある日今付き合っている彼ですと言って、男友達を連れてきた。システム・エンジニアをしている一見穏やかな青年である。しばらくして二人は結婚し、帝王切開で男児を出産した。その後も睡眠時に限って週2-3回の発作があるものの、穏やかな生活を送っている。

上記2名の患者さんはいずれも難治なてんかんで、突拍子もない粗暴な行動で周りを困らせていたが、結婚を機に、はるかに穏やかになった。いずれのご主人も寛容であまり腹を立てない方である。外部からの注意や指導がなくなったのが良かったらしい。本人が納得できない、行き過ぎた注意はかえって患者の反発を招き、それがなくなったら、穏やかになったと考えられる。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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