35.女性生理と精神症状との関係 (2006年2月号)

前回はてんかん発作と月経(生理)との関係をお話しました。てんかん発作が生理と関連して起こる場合が多いことをお話しました。これを「月経てんかん」といいます。今回は女性の生理と精神症状についてお話しましょう。女性では生理の前に神経質過敏になり、いらいらすることが多く、過度のつかれや軽いうつ状態になったりすることがあります。頭痛、嘔吐、めまい、心悸亢進、不眠、体重増加、のどの渇きなどの自律神経症状も出ることがあります。これを「月経前緊張症」といいます。健康正常な女性でも約4割の方が生理の直前にこのような体験があり、通常生理の開始とともにこの症状は消失します。この様な症状はもちろん、てんかん患者でもあるいは知的障害者でも起こりうる。特に知的障害者では生理との関連に気がつかず、むやみに多くの薬を飲まされたりする場合がある。

しばらく前に次のような患者さんに遭遇した。中・重度な知的障害とてんかんを合併する女性である。普通は穏やかだが月に1回は不機嫌になり、水を飲んだり歩き回ったり、頻回にトイレ通いがあり、落ち着きがなくなる。注意すると表情が急に変わり、母親に食ってかかったり、衣類を引っ張って破いてしまうことがある。夜間寝ないで騒ぐので家族は大変である。薬が処方されその量も次第に増えた。ドグマチール、ヒルナミン、ハロペリドールなどが処方され、荒れたときには近所の施設に短期入所させるのが常であった。

ヒルナミン、ハロペリドールは強力な抗精神薬であり、鎮静作用が強い。多量に使うとぐったりとして生気を失う。一方ドグマチールは自律神経を和らげる比較的やわらかい薬であり、いろいろな身体的な不定愁訴のある自律神経失調症や心身症などに広く使われる薬剤である。胃潰瘍の薬でもある。しかしこの薬は女性ホルモンに影響を与え、生理が止まったり、母乳が出たりすることがある。食欲が増進し体重も増えるという副作用もある。

本患者はドグマチールのせいか生理が2年半以上止まっていた。そして月1回ひどく荒れることがあった。当然あるべき生理がないのは不自然なので、とりあえずドグマチールをやめることにした。そしたら数ヵ月後再び生理が始まった。そして驚くべきことがおきたのである。

いつもの月1回の荒れ狂う精神症状はすっかり影を潜めて、朝までぐっすり眠り睡眠薬は必要なくなった。翌朝は機嫌よく、母親と目と目を合わせ笑顔で作業所に出るようになった。60歳を超えた母親は大変喜んだ。母親の弁を借りれば、いつもなら冷蔵庫を開けたり、閉じたり、うろうろして落ち着かず、頻回に水道栓を開けて、寝ないで騒ぐのが毎月10日ほど続くのが常であったが、生理の再開に伴って劇的に改善した。

この例は「月経前緊張症」が生理開始によって通常改善すべきところが、生理がないため症状がダラダラと長引いたと解釈された。

私はこの症例を介して、自然に逆らわないほうが良いという教訓を得た。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

むさしの国分寺クリニック・ホームページへ

むさしの国分寺クリニック・ホームページへ