158.イラつき・怒りについて考える(2016年5月号)

かつてイラつきが治ったてんかん患者さんについて述べたことがある(忘れえぬ患者さん(その3)-いらつきが治った症例(平成27年12月号)

今回はもう少し幅を広げててんかん患者さんのイラつき・怒りについて考えてみよう。イラつき・怒りはもちろん人間であれば誰にでも持っている自然な現象である。動物ではもっと顕著で、本能的に備わっている防御反応である。危ない局面、いやな、不快な局面にあうと、相手を威嚇して攻撃するか、あるいは自分が逃げるかを瞬時に判断しなければならない。これを怠ると相手に襲われ、傷つき、殺されてしまうかもしれない。怒り・恐怖は自分を守る大切な手段である。

人間はイラつき、怒るのは損する場合があることを知っており、自分の怒りをコントロールして、相手をなだめ、話し合って解決する方法があることを知っている。しかし自分の怒りをなだめて、コントロールするのは容易ではない。沢山のてんかんの患者さんと長年付き合っていると怒りっぽくて、いつもイラついて、喧嘩ばかりしている人がいることに気付く。この「イラつき・怒り」はてんかん患者さんに特に多いというわけでもないが、てんかん発作、あるいはてんかんという病気や抗てんかん薬と密接な関係がある場合があることに気付く。

てんかん発作が治ったらまるで人が変わったように穏やかになった症例、あるいはある種の抗てんかん薬を止めたら、イラつきも消失した例、あるいは精神安定剤が功を奏しておとなしくなった例などがある。この様な事例を経験することは治療者にとっても大変勉強になる。

今回は発作が止まったら穏やかになった症例を提示しよう。

症例 初診時67歳男 30年前から、歯を食いしばり、口をぺちゃ・ぺちゃ動かし、指を擦るような動きを示す発作が出た。この間ぼんやりして呼んでも返事しない。意識がとんでいるらしい。発作は30秒と短く、頻度は月2-3回程度である。3-4年前から物忘れが目につきようになった。孫と一緒に行った旅行のことや息子の勤め会社を忘れた。そのころよりイラつきや怒りっぽさが目立ってきた。妻に発作を指摘されるとイラつく。初診時の薬はバルプロ酸徐放剤500mgであったが、カルバマゼピ100㎎に変更し、発作は完全に止まった。脳波で左側頭部に発作波があり、MRIでは:左扁桃体・海馬の肥大 PETでは同部に集積低下があった。左側起源の側頭葉てんかんであることが証明されたが、おそらく情緒障害も記憶障害もこの部に関連した症状の一つであると考えられた。

発作がなくなって情緒面で安定するようになった。従来ちょっとの事も気になり、神経過敏だったが、発作の抑制と同時に穏やかになり、夫婦喧嘩もしなくなったという。

本症例では、興奮している左側頭葉がいらつき・怒りを増強させ、発作がなくなり脳の興奮が治まると同時に情緒が改善したと解釈された。一般に側頭葉てんかん患者は、仮に発作があっても、穏やかで情緒的に安定している方が多いので、この点誤解ないようにお願いしたい。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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