12.てんかんに合併する心の問題:うつ病について(2004年3月号)

前回は「ものわすれ」について説明しました。

記銘力と最も関係が深い脳の部位は側頭葉内側部(海馬)であり、この部はまたてんかん発作の最も起こりやすい場所でもある。ここに焦点があるてんかんは「側頭葉てんかん」に分類され、複雑部分発作といわれる発作がみられる。これは「急に意識がなくなり、動きが止まり呆然とした表情になる」短い発作です。この側頭葉は脳の左と右の両方にあり、片側が侵されても記銘力に支障はないが両側が侵されると著しい記銘力障害が来る。側頭葉てんかん患者さんの中でも発作が頻回にあるときは記銘力も落ちてくることもあり、発作がおさまると記銘力も回復することがある。また難治な発作で、病的な側頭葉を外科的に切除すれば記銘力も良くなることもしばしば経験する。

今回は「てんかんとうつ病」について考えて見ましょう。てんかん患者に「うつ病」が多いかどうかについては多くの議論があり、まだはっきり結論が出ていないが、多くの調査では、てんかん患者には「うつ」の症状が多いと報告されている。「うつ」の症状として「抑うつ気分」、「意欲の低下」、「興味の喪失」、「強い不安感」などが挙げられ、その原因として発作への不安、病気への恨み、自尊心の障害、個人的羞恥心、就労の困難性、低い経済状態、社会的汚名などの社会・心理的環境があげられている。

「うつ」になると落ち込んで気力がなくなり、人と会うことも話をすることもおっくうになる。電話にも出ない。仕事や家事も出来なくなる。それまでに興味があったスポーツや音楽などにも興味を示さず、新聞やテレビにも見ないで一日中寝込むことが多くなる。時に焦燥感が現れることもある。不安やいらいら感が強くなり落ち着いてじっと座っていることが出来なくなる。部屋の中を歩き回って「どうしよう、どうしよう」とあせる。通常朝から午前中は調子が悪く、夕方になると気分がやや良くなるという「日内変動」があることが多い。このうつ状態はストレスがたまれば、誰でも起こりうる現象で、とくに恥ずかしがる必要は全くない。最近では良い「抗うつ薬」が沢山出ており病状もすぐに良くなる場合も多いので、早めに治療に取り組んでもらいたいものである。

不安感そのものが発作症状であることもある。特に側頭葉内部(海馬、扁桃核)は記憶の中枢と同時に感情の中枢でもあるので、この部から起こる発作の最初の兆候が不安や恐怖感のことも多い。本人にはこれらの兆候を前兆として自覚し、「なんとも表現しようのないいやな感じ」とのべる。普通はこの前兆のみで終わりことが多く、必ずしも強い発作を伴わないが、これが頻回に起こるとだと一日中不安な感じが残っており、家の中に閉じこもってしまうこともある。

しかしてんかん患者の中でも性格的に楽天的な人もいる。たしかに発作を持っている人や家族には不安やストレスは多いが、患者本人は発作の最中の出来事を全く覚えていないので、意外とさばさばして発作があっても意に介さない人もいる。家族の心配と不安とは全く対照的ですらある。楽天的なのはたいへん結構だが、そのため薬を飲み忘れたり怠ったりすることはいけない。飲みたがらない理由をよく聞き、厳重に注意すべきであろう。

「成人期てんかんの特色」/大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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