159.忘れえぬ患者さんたち(その7)(2016年10月号)

未体験の事柄であるはずが、過去にどこかで体験したことがあるような錯覚を覚えることがある。知らない人に出会っても過去にどこかで会ったことがあるような感じがわいてくる。ああこの顔、この場面、このような体験、昔どこかであったなという体験である。そして懐かしい、心地良い気分が伴う。これをフランス語由来の英語で「デジャヴ」既視体験という。

またこれと逆で、よく知っている、毎日見慣れている筈の物事が初めての体験かのように奇異に感ずることもある。これを「未視現象」という。毎日会っている親兄弟、自分の家が初めて会った、初めて見たような、よそよそしい感じが伴う。これを「ジャメヴュ」(未視体験)という。これらの感覚がてんかん発作症状の一部になってくることがある。例を示そう。

症例1. 50歳 女
8歳の時学校で倒れたことがある。30歳で夜間のけいれん発作があった。40歳ごろから、口部自動症を伴う意識減損発作が月に1回ぐらい見られるようになった。最近、既視現象に気づいた。知らない人が知っているような人に見える。今ここに座っているが前にもこんなことがあったと感ずる。また未視現象もある。いつもよく知っている家族が知らない人のように感ずる。家の中もなんとなく様子が違う感じがする。この現象は数日間続き、数か月に1回来る。

最近記憶力が落ちてきた。50万円銀行から引き出したがそれを覚えていない。脳波では左右両側に発作波がみあり、まだ発作は完全に治まってはいない。

症例2. 70歳 男
60歳初発てんかん 一瞬意識が途絶える発作で、これが週1回の頻度で起こる。
発作は突然妙な世界に突然入り込むという感じから始まる。不思議な世界、別世界、子供時代に見たような夢の世界にいる。夕暮れのさびしい世界、やるせない気持ち、どこかで経験した懐かしい世界で不思議な世界にいる。この感覚は発作的に来て短時間で消えることもあるが、これは1日中続くこともある。

症例3 70歳女性
50歳ごろからの発作。夢のような感じ、あ、同じだ、前に見た景色だと思ったら意識が飛ぶ。10-15秒。それが1時間に数回くる。これが続くとイライラし、ヒステリックになり、外に飛び出そうとする。だんだん話の調子がきつくなり、些細な事でも、カーとなり、死ぬと大騒ぎする。この状態が3-4日中つづき、その後落ち込む、晴れ晴れとした気持ちになれず、無口となる。これが半月以上つづいた。発作後のうつ病である。

脳波で左側頭部に発作波があり、薬物で完全に発作を止めえた。その後イラつき、うつ状態もない。

この既視・未視現象は過去の記憶が間違った感情を伴って呼び戻される現象で興味深い。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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