78.認知症と間違われたてんかん(2009年9月号)

人は誰でも年を取ると忘れっぽくなる。人の名前が出てこない。言葉がすぐに出てこないので「あの」、「その」、「あれ」、「何だっけ」などという代名詞が多くなる。特に昔のことはよく覚えているが、最近のことは忘れやすい。何かショッキングなことがあると、それをきっかけに物忘れが進行することもある。たとえば、世話していた認知症の親が死亡して、やれやれと思っていたら、自分の物忘れもひどくなったなどという話はよく聞く。

物忘れが高じてくると、今日は何日か、ここはどこか、そばにいる人が誰だかわからなくなる。財布の置き場所を忘れ、「盗まれた」と大騒ぎする。「誰かが家に入り込んで来た」などと被害妄想に陥ることもある。このような症状はアルツハイマー型の認知症の特徴である。

しかし認知症と間違われるてんかんも最近目につくようになった。特に高齢者初発の意識減損発作や記憶発作がそれに当たる。

ほんの数秒だが、意識が途絶え動きが止まる短い発作がある。側頭葉てんかんの複雑部分発作だが、自分も家人もその発作に気がつかない。発作の最中でも、簡単な動作はできる。たとえば歩いていて、発作が起きてもそのまま歩き続けることができる。しかしいつも行っているお店に買い物に行ったが、途中で道がわからなくなり戻ってきたりするなどという現象も起こりうる。

意識は失わないが、今やっていたことの記憶が突然失われるという発作がある。「記憶発作」である。先日こんな患者さんに出会った。同僚とゴルフをやっていたとき、グリーンの近くまで来たのは覚えているが、気がついたらホールアウトしていた。一緒に回った同僚は何の異常にも気づいてない。グリーンの上ではパターを使ってボール転がし、小さなホール(穴)にいれ、その球を拾い上げてグリーンの外に出たのであるが、その記憶がまったくない。意識は失われずに複雑な動作も上手にやったが、その記憶だけが消え去ったのである。そのようなことがしばしば起こるようになり、本人が大いに驚き、悩んだ。家族に認知症を疑われ、ある脳外科を受診し、てんかんかもしれないから専門のところに行くように指示され、当院を受診した。脳波を取ったところ覚醒時脳波では何の異常もなかったが、睡眠に入ったとたん側頭部にきれいなてんかん性の棘波が頻回に出たのである。てんかんの可能性を疑がった脳外科医に敬意を表する。

一般に意識減損発作や記憶発作が頻回に出ると記憶力が鈍り、認知症のような症状が出うる。また発作が起こる数年前の過去の記憶をも消し去ることがある。本患者は発作が起こる数年前に中国、ヨーロッパなど旅行していたがその記憶がすっぽりと抜け落ちているのに気づいた。

テグレトールの治療で完全に回復し、今は記憶力も抜群である。しかしいったん抜け落ちた過去の記憶は戻らない。認知症を見たら一度は睡眠脳波を取るべきであろう。「治療可能な偽・認知症」であるかもしれない。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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