165.成人期てんかんの特色―高齢初発てんかんと物忘れ―(2017年10月号)

高齢初発てんかんは、近年急増している。その発症率は65歳を過ぎたころから増加しはじめ、70歳をすぎると若年発症率を超え、80歳を過ぎると乳幼児の発現頻度を超えて最大の発症率を示す。このことについては「てんかん発症と年齢」と題してすでに述べた(平成27年6月号)。

高齢者の発作症状は通常軽微で多彩である。意識障害、失語、もうろう状態などが発作症状であるが、多くは短時間で終わる。この間何かおかしなことをしゃべったり、無意味に動きまわったりすることもある。いつも行き慣れた場所が分らなくなり途中で戻ったりすることもある。このような多彩で軽微な発作症状については「高齢初発のてんかん――発作症状は見逃しやすい――」(平成27年7月号)と題してすでに述べた。
また発作が治まらないで、しばらく続いていると記憶障害が目立ってくることがある。発作時には意識が曇って記憶も失われるが、発作が頻回に起こると物忘れがひどくなり、認知症と間違えられることがある。

てんかん患者の物忘れにはいくつかのタイプがある。その一つが「エピソード記憶の障害」である。過去の重要な記憶がそこだけすっぽり抜ける現象で、例えば数年前に家族で一緒に海外旅行に行った記憶、数年前に親の葬式で自分が喪主を務めたがその記憶がすっぽり抜けているなどである。家族との昔話で海外旅行が話題となった時に、その記憶が自分にはなくなっていることに気が付く。また二つ目の記憶障害は一過性てんかん性健忘(TEA)と呼ばれる現象がある。特に朝方目が覚めた時に起こりやすく、自分が誰だか、ここがどこだか、今まで何していたかわからなくなる現在の記憶の喪失であり、多くは10-30分続く。これについては、一過性てんかん性健忘(TEA)と題して平成27年8月号ですでに述べた。第三の記憶障害は認知症に似た記憶障害である。前回来院後どこに寄ったか、一昨日家族と話した内容など最近の出来事が思い出せない近記憶の障害である。
適切な治療により発作が消失すると、記憶障害も改善される。しかしいったん失った過去のエピソード記憶は戻らないが、新たにエピソード記憶の喪失が生ずることはなくなる。
今回はてんかん発作が改善され、同時に記憶喪失も改善された例を報告しよう。

症例.てんかん発症時57の女性、側頭葉てんかん患者さんである。意識が一瞬消失し、この間無意味に動き回る発作が週数回あり、同時に物忘れも多くなった。治療により発作は完全に消失した。治療前と4年後に発作消失した後の知能テスト(WAIS-Ⅲ)と記憶テスト(WMS-R)を比較した。その結果、知能検査では言語性IQ96->107、動作性IQ103->110、全検査IQ99->110と知能指数は向上した。さらに記憶検査では、言語性記憶77->86、視覚性記憶77->82、一般的記憶90->100、注意集中90->100、遅延再生50未満->55とすべての面で改善があった。てんかん特に側頭葉てんかんでは、度重なる発作は記憶力をも巻き込み、発作の改善で記憶力も改善する。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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