124.発作の裏にある脳の病気:その13 一過性脳虚血(TIA)(2013年7月号)

一過性脳虚血(TIA)という脳の病気がある。脳の一部の血管が狭窄を起こしてその部に一過性の障害を起こす病気である。

様々な障害が急速(2-3分)の間に起こり間もなく消えていく。意識障害も来たすこともあるので、てんかんと間違われやすい。

症状の主なものは顔・腕の麻痺や言葉の麻痺などがある。例えば顔の場合は「イー」と笑顔をつくりと、片側の口角が上がらないので、口角がゆがむ。また腕に麻痺が来れば、手のひらを上向きにして両腕をまっすぐ前に突き出してみると。麻痺がある場合、麻痺側の腕が回転しながら下がってくる。言葉の麻痺の場合は、短い簡単な文章を発音できなくなる。その他、めまい感、脱力感、しびれ感、頭痛、不明瞭な話し方、話の理解困難、視覚の部分的消失や複視などが現れることもあり、おおむね1時間以内に消失する事が多く、24時間以内には完全に消失する これ等の一過性脳虚血(TIA)症状は、繰り返して起こることも多く、短時間で治るのでてんかん発作と間違われることがある。また一過性脳虚血(TIA)は脳梗塞の前触れでもあり、そのうちに大きな脳梗塞が来る可能性もあるので、注意が必要である。

 

症例を挙げる。70歳代の女性Mさんは、かつて高血圧、動脈硬化、狭心症が指摘されていた。しかし活発な女性で会社社長としなお現役で仕事をしていた。ある日朝起きてから間もなく、急に右手がしびれて、右の口が曲がって、発語もうまく言えなかった。

この症状は約30分ぐらい続いたが、間もなく完全に回復した。急いで病院を受診し、MRIの画像検査を受けた。その結果年齢相当の数個のかくれ脳梗塞が見つかった。

かくれ脳梗塞とは何の症状もないのにMRIを調べると脳のあちこちに数個の小さな脳梗塞像が偶然見つかることがある。これを隠れ脳梗塞と呼ぶが、一見正常な人でも検査で見つかることがある。本例もそのたぐいで、知らないでいるうちの数個の小さな脳梗塞が出来ていた。医師いわく、この右側の深部にあるこの小さな脳梗塞が、今回の症状を惹起したものだろうと考えるとのことであった。

脳は酸素不足に敏感である。脳の栄養は血液によって運び込まれる酸素と糖分によって保たれており、血流が減少すると、脳は生きていけなくなる。脳血流が4分間以上止まると、その部分の脳組織が壊死するといわれている。

人はある年代に来るとこのような小さな脳梗塞が知らないでいるうちに脳のあっちこっちに出来ているらしい。

高齢者初発のてんかん患者のMRIをみれば、このような小さな脳梗塞像が見つかり、その一部が側頭葉内側面に及ぶと、高齢者に多い側頭葉てんかんが発症する可能性がある。

例のMさんはその後特に大きな脳梗塞もなく75歳を過ぎた今でも、まだ元気で会社社長を務めている。仮に一過性脳虚血(TIA)を起こしても、注意すれば生涯現役で過ごせるかもしれない。

「成人期てんかんの特色」大沼 悌一

(この記事は波の会東京都支部のご許可を得て掲載しているものです。無断転載はお断りいたします。)

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